株式会社FMCC(Fatigue and Mental Health Check Center)

2-11:自律神経機能の客観的評価法と臨床的意義

1. 自律神経機能の客観的評価法:
自律神経機能は心拍変動(HRV)分析や血圧変動の観察等を通じて評価されることが一般的です。これらは自律神経系が体全体のバランスを保つためにどのように働いているかを示します。具体的には、心拍数、心拍間隔、呼吸パターンなどを詳細に分析し、それぞれの値が指標となります。これらの指標はストレス反応や心身の健康状態を反映するものであり、定量的な評価が可能となります。

1-1. 心拍変動解析:
心拍変動解析は、心拍間隔の変動を精密に調査する技術で、自律神経系の健康状態を評価する一助となります。心拍数やその変化は、交感神経と副交感神経のバランスを反映しており、このバランスを心拍変動解析によって探ることが可能です。具体的には、一定時間内の心拍数の変動(心拍変動性)を調査し、その変動性が高いほど副交感神経の活動が活発であると解釈します。副交感神経は、体をリラックスさせ、ストレスを軽減する役割を果たします。従って、心拍変動性が高いことは、ストレス耐性が高いことを示すと言われています。心拍変動解析は、自律神経のバランスを理解し、ストレス管理の一部として使用することができる有用なツールです。
心拍変動解析は、病院や検査施設で最も多く用いられている自律神経機能評価法ですので少し詳しくご説明を致しますと、心拍間隔の微妙な変動を詳細に調べ、その結果から交感神経と副交感神経のバランスや活動を評価しています。この分析により、体のストレス状態や自律神経の調整能力を理解するのに役立ちます。 心拍変動解析には、主に周波数領域解析と時間領域解析などの方法があります。周波数領域解析は、通常2分間の心拍間隔を計測し、その変動を最大エントロピー法などの手法を用いて周波数成分に分解します。具体的には、低周波成分(LF: 0.04-0.15Hz)と高周波成分(HF: 0.15-0.4Hz)を調査します。高周波成分は副交感神経活動を主に反映し、低周波成分は交感神経と副交感神経の両方の活動を反映します。時間領域解析では、連続した心拍間隔の変動を直接分析します。例えば、SDNN(全ての連続した心拍間隔の標準偏差)やRMSSD(連続した心拍間隔の差の二乗平均の平方根)などがあります。また、ローレンツプロット解析というグラフィカルな方法もあります。これは、連続する心拍間隔を2次元平面上にプロットするもので、プロットの形状から心拍変動のパターンを視覚的に把握することが可能です。これらの解析手法を用いることで、心拍変動性の高さを評価し、それが高いほど副交感神経活動が高く、ストレス耐性が高いと判断できます。

1-2.自律神経活動指標の偏差値化:
自律神経機能について多くの健常者で調べてみますと、自律神経活動値は加齢に伴い大きく低下していることがわかります(図)。このため、年齢の異なる被験者の健康指標としては自律神経活動値の活用は難しく、自律神経バランスのみの指標を用いてストレス度を評価することが行われてきました。


私たちは、現在20万人以上の一般地域住民の自律神経活動を調べたデータを保有していまして、このデータを用いて自律神経検査を受けた被験者の自律神経年齢を算出することに成功していますので、あなたの自律神経活動が何歳相当の活動を保持しているのかを調べることができます(特許第5455071号)。また、年代ごとの自律神経活動値を偏差値化にも成功していまして、どの年齢の被験者であっても自律神経活動が健常者と比較してどの程度の活動が維持できているのかを評価することや、年齢の異なる被験者でも共通した客観的な健康評価として自律神経活動評価が活用可能です(特許第6550440号)。自律神経年齢の算出や、自律神経活動値を偏差値化して評価する手法は株式会社FMCCの知財となっています。


疲労度計(㈱疲労科学研究所VM302)を用いて自律神経機能を調べている風景

1-3. 起立試験(Tilt Table Test):
この試験は、患者が平らなテーブルに寝ているところから急に立ち上がるときの血圧と心拍数の変化を測定します。テーブルは通常、70-80度まで傾けられ、その間に血圧と心拍数がモニタリングされます。これにより、特に立ちくらみや失神の原因となる自律神経の反応を評価できます。この試験は一般的に安全であるが、患者が失神する可能性があるため、医療スタッフが常に監視する必要があります。

1-4. 呼吸と自律神経機能の関係:
深呼吸試験(Deep Breathing Test):
この試験では、患者が深呼吸をするときの心拍数の変化を評価します。通常、患者は一定のリズムで6回の深呼吸を行い、吸入と吐出時の心拍数の最大差を測定します。この試験は、主に副交感神経系の機能を評価します。

ボールバルブ試験(Valsalva Maneuver):
この試験では、患者が一定の力で息を吹き出す(通常は約15秒間)ときの血圧と心拍数の反応を測定します。ボールバルブ試験は、体の血圧調節反応(特に交感神経系)を評価します。この試験は、特定の心臓や神経系の条件を診断するために使用されます。

1-5. その他の評価方法:
・皮膚電気活動(EDA):
ストレスや情動の状態は皮膚の電気的特性に影響を与え、これを測定することで自律神経系の活動を評価できます。特に手掌や足裏の皮膚の電気伝導度は、交感神経の活動によって変化します。
・呼吸パターン:
呼吸の速度、深さ、一貫性は自律神経系の状態を示す重要な指標であり、副交感神経系(特に迷走神経)が主に制御しています。深くてゆっくりとした呼吸は副交感神経系の活動を反映し、逆に浅くて速い呼吸は交感神経系の活動を反映します。
・FEV1.0/FVC比と最大呼気流量(PEFR):
自律神経系の影響は、呼吸器系にも反映されます。FEV1.0/FVC比とPEFRは、気道抵抗を間接的に測定する手法で、気道の小径(特に気道平滑筋の状態)と自律神経系の影響を反映しています。
・薬物反応テスト:
β2アドレノ受容体作動薬やムスカリン拮抗薬の使用は、自律神経系の気道平滑筋に対する影響を評価する有用な手段です。 これらの試験は、自律神経の機能を評価するための重要なツールであり、さまざまな病状や症状の診断に役立ちます。それぞれの試験は特定の自律神経反応を評価するため、医師は患者の症状や既知の健康問題に基づいて最も適切な試験を選択します。

2. 自律神経機能評価の臨床的意義:疾患診断への応用
自律神経機能の評価は、心疾患や糖尿病などの慢性疾患の早期発見や進行度の評価に重要な役割を果たします。不整脈や高血圧など、自律神経機能の異常が原因となる疾患は数多く、適切な評価により予防や早期治療へとつながる可能性があります。また、ストレスや疲労、不眠等に関連する自律神経失調症の診断にも応用されています。

3. 自律神経機能の評価:未来への展望と可能性
先端技術の進化により、自律神経機能の評価は更なる精度向上が期待されています。人工知能や深層学習の進化により、これまでにない精密な解析が可能となり、個々の生活スタイルや体質に対応した詳細な評価が可能になると予想されます。また、ウェアラブルデバイスやIoT技術と組み合わせることで、日常生活の中での連続的な自律神経機能のモニタリングも実現しようとしています。これらの技術が進化することで、自律神経機能の異常を早期に察知し、適切な対処や治療を施すことが可能になり、個々人の生活の質(QOL)の向上につながることが期待されています。



医師:倉恒弘彦(くらつね・ひろひこ)
プロフィール
大阪公立大学医学部客員教授として、疲労クリニカルセンターにて診療。1955年生まれ。
大阪大学大学院医学系研究科 招へい教授。
日本疲労学会理事。著書に『危ない慢性疲労』(NHK出版)ほか。

 

 

 

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