株式会社FMCC(Fatigue and Mental Health Check Center)

健康について 第10回

⑩ 疲労の回復法1―入浴の効果-

 日本人の約4割が半年以上続く慢性的な疲れを自覚し、その半数近くの方が疲れのために生活の質が低下しているという現状は、決して好ましいものではありません。そこで、今回からは疲れた時の対処法とその効果についてご説明します。

 

●疲れの対処法とその効果

 大阪府民1,219名に「あなたは普段どのようにして疲れに対処していますか?また、その効果はいかがですか?」と聞いてみましたところ、疲れたときには多くの方が日本茶やコーヒー、お酒などを活用していると答えておられます(図1)。しかし、この結果から判断しますと、これらは疲れの回復にはあまり効果はなく、多くの方が日常生活の中で効果を感じておられる回復法は入浴でした。皆さん、疲れたときに自宅に帰って、風呂に入りほっとすると疲れが取れたような気がする。これが実感だろうと思います。末梢循環が改善し、またリラックス効果もみられるようです。


図1.  疲労回復に用いている方法の頻度とその効果
(生活者ニーズ対応研究:疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその制御に関する総合研究より)

 疲労回復効果だけをみてみますと、入浴よりも温泉の方が良い結果となっていますが、これは温泉地に行くとおいしいものを食べたり、自然に触れたりすることができるといった転地療法の効果が加わっているものと思われます。

 また、それほど多くはありませんが効果が高いと感じておられるものとして、笑いがあります。大阪は大衆演芸が盛んですので、疲れには笑いが良いと意識的に感じる機会が多いのかもしれません。それ以外には、マッサージや体操、指圧、漢方薬、音楽などに効果があると感じておられる人も多く、動物との触れ合い、アニマルセラピーが疲れの回復に結び付くと答えている方もおられます。

 尚、Aさんに有効な疲労回復法が、必ずBさんにも有効であるとは限りません。疲労の回復には性格や気質に伴う個人差がありますので、うまく自分に合う回復法を見つけることも大切です。

 

●入浴の疲労回復効果

 今月は、まず日常生活において一番多くの方が実感しておられる入浴の疲労回復効果についてご説明します。入浴による効果は、温熱効果で血管が拡張して全身への血液の流れが改善し、酸素や栄養素の供給が増えることが関係しています。また、バスタブの中では水面からの深さに応じて水圧がかかっていますので適度なマッサージ効果も認められます。さらに、水中では常に体重により圧迫されていた膝や腰の負担が浮力によって軽減することも疲労回復に関連していると思われます。

 尚、入浴の効果はお湯の温度によっても違っています。42度以上の高温浴は、交感神経系の活動を高めて新陳代謝も促進され、抑うつ状態の改善や意欲の向上などの疲労回復効果が期待できます。

 一方、39度以下の比較的ぬるめの入浴では副交感神経系の活動が高まり、リラックス効果が期待できます。さらに、ぬるめの入浴では睡眠誘発効果も期待できます。比較的ぬるめのお湯にゆったりとつかっていますと、体の深部体温が38度程度まで上昇しますが、入浴後に体温が下がり始めると眠気を誘発することがわかっています。そこで、不眠でお困りの方には、この体温低下に伴う眠気の利用されることをお勧めしています。

 しかし、多くの方は入浴後に居間でテレビをみてくつろいだり、歯を磨いたりしておられ、せっかくの好機を無駄にしています。入浴後30分以上時間が経過してしまいますと、上昇していた深部体温は元に戻り、入眠誘発効果は失われてしまいます。この効果をうまく活用するためには、入浴前にするべきことをすべて処理し、入浴後はすぐに寝付くことが大切です。

 最近では、浴槽に泡や水流を作り出す装置を設置して入浴を楽しんでいる方も多くみられます。泡風呂には交感神経系の過度な緊張を軽減する効果があり、また暖かい湯の流れに体を当てることは、筋肉の緊張が取れ、脳機能の回復効果が認められることもわかってきています。

入浴は、科学的な効果が明らかになってきている家庭でできる一番身近な疲労回復法の1つですので、自分にあった入浴法を取り入れられることをお勧めします。

 


医師:倉恒弘彦(くらつね・ひろひこ)
プロフィール
大阪市立大学医学部客員教授として、疲労クリニカルセンターにて診療。1955年生まれ。
大阪大学大学院医学系研究科 招へい教授。
日本疲労学会理事。著書に『危ない慢性疲労』(NHK出版)ほか。

 

 

 

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